障がいをもつ子供に社会全体で投資し多様性の高い社会にするということは、実は、経済的にみても、費用対効果が高いということをご存知でしたか。
先日、ヨーロッパで子育てをしている方とお話しをする機会があり、その方のお子さんが障がいをもっていて、政府が障がいを児童にどのようなことをしているかという話をしました。
その方が住んでいる国では、公立学校でも私立学校でも、障がい児に手厚く支援しており、その方のお子さんには、専任の担当の先生が必ず配置されるそうです。その国の財政の状況は決して良好なものではないのですが、そこまでの手当をするのは、社会全体で障がい者をサポートしてゆこうというフィロソフィーも関係していると思います。
さて、こういった費用を公費で賄うということは、すなわち納税者が負担しているということです。
では、こういった費用は、経済学ではどのように考えているのでしょうか。
教育も投資の一環であることから、教育の投資効果という観点から考えることができます。経済学は多岐に渡っており、「教育の経済」という分野があります。
家庭レベルでも国・地方政府レベルでも教育には多額のお金を支出していますが、どういった教育支出が、より効率的でより高いリターンを得られるのでしょうか。
アメリカなどでは学校や生徒のデータを基に、「どのような要因(先生の質、少人数クラスであるかどうか、校長先生の質など)が、生徒の学力向上に貢献するか」という研究が、教育の経済学の分野で盛んにおこなわれています。そういった研究成果が、実際の教育政策の意思決定の際に、何を優先すべきかを決めるのに使われています。これは、納税者が納めた税金をより効率的に使うということにもなります。
この辺のことは、教育経済学者の中室牧子慶應大学教授著「学力の経済学」でも論じられています。
では、冒頭にお話しした、障がいを持つ児童に潤沢な公的資金を投入することのメリットはどういうものでしょうか。最近では非常に多くのお子さんが自閉症をはじめとした何らかの「特殊教育が必要な児童」と認定されていることを背景に、教育経済学の分野の研究が進んできました。
この分野の研究の大きなコンセンサスの一つは、子供の障がいの有無を早期に発見して幼児期の療育や就学期の特別教育などを行う場合、その子供の持てる可能性をより発揮できるようになるという意味で非常にリターンが高いということになります。
仮にそういった療育や特別教育を受けられなかった場合、大人になってから症状を改善するのは難しく、その子供が大人になった時の職業選択の幅も小さくなってしまい、将来的には生活保護や医療費という形で公的負担が生じる可能性も高くなります。残念ながら、大人になってから自閉症などの症状があまり改善されず、そのために望ましい就職を出来なかった場合は、鬱病や糖尿病といった疾患にかかることも多いのです。
したがって、社会全体で障がいを持つ子供の教育に投資するというのは、多様な生き方を許容しインクルーシブで「障がいを持つ人にやさしい社会」を実現できて、障がいを持つ方の人生に恩恵があるばかりではなく、実は、長い目で見た社会的負担・公費負担を減らす効果も期待できるのです。