先日の記事で、経済学が情報リテラシーを高めるのに役立つというお話をしました。今日は、経済学への批判の1つ ー 経済の予測は外れてしまうことがある ー についてお話しします。経済学者のおこなう経済の先行きへの予測は完全なものではないということを頭に入れたうえで、私たちの情報リテラシーを高めるには、①当初に予測できなかった事態が発生した時には、予測はくつがえることもあるということ、②経済学者や経済の専門家が出す結論を鵜呑みにするのではなく、どのような情報を基にその結論に至ったのかを知ることが重要、と私は考えます。
なぜ経済学が批判されるか
経済学者が批判されている理由のうち一つは、現状の経済の分析について経済の専門家でも意見が分かれることも少なくなく、また、将来の経済への予測は外れてしまうこともあるということです。2つ目は、経済学は、環境問題だとか経済発展に取り残された貧しい人々の問題について正面から向き合っていないと言うことです。(経済の専門家は、経済学者、エコノミスト、アナリスト、経済評論家などいくつかの分類がありますが、ここでは、一括して「経済学者」と呼びます。)
今日は、上記の1つ目の理由について述べます。
経済の予測の裏にあるもの
経済学者と言う職業がより日本よりも一般的になっているアメリカにおいては、経済学者が間違った予測や分析をすることをジョークにされたりします。例えば、「経済学者は今日何かを言って、明日また別なこと言ってその別なことを正当化するのが上手だ」といったものです。
IMFは年に二回世界経済見通しを発表して先行き1-2年くらいの経済の予測を行います。その他の国際機関やシンクタンク、銀行や証券会社の調査部門でも、経済の予測をしています。予測というのは、その予測を行った時点で得られた情報やデータに基づくものなので、予測不可能なことが起こったときには、それはどんなに優秀な経済学者でも予測というのができないです。例えば、今年初めの時点で、多くの国際機関や経済学者は、世界経済はおおむね順調に成長すると述べていました。ところが、新型コロナウィルス感染拡大によりそのシナリオの方もなく崩れ去ってしまいました。
例えば、IMFが今年4月に発表した経済予測によると今年の世界全体の経済成長はマイナス3%位だと言っていました。しかし、翌月5月には、新型コロナの影響が世界的に急に広がり、IMFのトップが、「今年の世界経済は、マイナス3%よりも更に悪くなるだろう」と言っています。
また、私は今年2月に、世界経済について知人と話をしていて、私の考えを聞かれたので、私は、「新型コロナウイルスのリスクがあるものの、2008年の金融危機の時と違い、今回は、金融機関や銀行に問題があって経済にお金が回らないという事態ではない」という趣旨のことを言いました。その同じ人と今年の5月にまた話をして、その人は「あなたが2月に言ったことと違うのではないか」と言ってきました。私が2月の時点で言ったことは、その当時に得られた情報に基づいてのことです。ですが、その後世界的なコロナウィルス拡大によって主要先進国で外出禁止・自粛の流れがあり状況は大きく変わり、今では、今年の経済は2008年の金融危機後の頃よりも更に悪化するだろうと言われています。
で、どうすれば良いか
では、どうすれば良いのでしょうか。経済の予測が完全無欠ではないからといって経済学者の言うことは信ずるに足らないということでは決してありません。次の2つのことを頭に入れておいた上で、経済学者の言うことを参考にして、最終的には私たち自身が自分で考えるという主体性が求められます。
1.予測は覆されうると認識
1つは、既に述べたように、経済学者の経済予測は、現在得られた情報に基づいているので、予測不可能な事態がおこったときには、当然、その予測はくつがえされるということです。どんなに高名な経済学者でも、当初得られた情報とは別の出来事がおこってその出来事が経済に決定的な影響を及ぼすときには、現実に起こることは、当初の予測とは異なるものになります。
2.結論よりも、プロセスや判断材料
2つ目は、経済学者が言う結論ではなく、その経済学者がどういった材料を基にどういったプロセスを踏んで話をしているかに注目することです。どのような情報やデータ基づいて、どのようなプロセスで導かれた結論なのかを探ることです。その経済学者が有名な人だからといって盲目的に信用してしまうと、私たちは情報リテラシーを高められません。
このように、経済学や経済の専門家の限界を知りつつ、そういった人たちの言うことを参考にしながら、自分で考えてゆくということを心がけると、情報リテラシーが高まり人生の可能性が拡がると思います。
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