「子供とゲームやテレビのルールを決めてもなかなか守れなくて、自分自身も仕事や家事で忙しいのでどうしたらいいのでしょうか」というご質問をいただきました。
これは、 仕事や家事で忙しい中で子育てをしなければいけない子育て世代の最大の課題の一つです。
この「子育てを最適化するには」のシリーズでは、3回にわたって、最適化の発想を使ってどのように子育てにアプローチするかという話をします。
子育てを最適化するとは
そもそも、子育てというシチュエーションでの最適化とはどういうことでしょうか。
それは、子育てや親自身の人生で実現させたいことを、利用可能なリソース(時間や労力や情報や育児スキルなど)を使って、(仮にそれが最高の理想的な状態でなくても)可能な限り達成し、「最適な」状態を達成するということです。
理想の子育てをし最高の状態を実現するのは、ほとんどの親にとっては不可能です。例えば、あなたにとって理想の子育てとは、子供との時間をふんだんに取り、子供の可能性を高めるために最高の物や機会を与えて、家の中をいつもピカピカの状態にして、手の込んだ手料理を毎食つくり、かつ、親自身も仕事や趣味で自己実現を目指すということかもしれません。しかし、私たちの多くは、それをするための時間などのリソースが不足しているという制約があり、実現するのは難しいです。
それで、そのような「理想の子育て」は実現できなくても、自分の望む状態を、自分の持つリソース内で可能な限り実現させるというのが、子育ての面での最適化の発想です。
1.自分が実現させたいことや目的をはっきりさせる
最適化を実現させるには、まず、 自分が何をしたいのかを明らかにすることです。例えば、あなたの実現させたいことが、子供が可能性を開花できるような環境を与え、子供と関わって絆を深め、仕事をして自己実現させ、自分自身の趣味や健康増強のための時間も確保したい、ということだとします。
あまり多くの目的を持つのは欲張りすぎでしょうか?私はそうは思いません。大抵のことは、正しいアプローチで達成できると思います。逆に、「欲張りすぎではないか、あれもこれも実現できないのではないか」と思って目的を当初から低く設定してしまうと、結果として、少しのことしか達成できないと思います。
2.目的達成のために必要なリソースを明らかにすること
目的を達成するために使えるリソースというのは、私たちの時間や労力やエネルギーです。お金である程度の時間が買えることを考えると、お金もリソースの一つです。
子育てにどこまでのリソースを費やせるか。多くの場合、親にとって最も貴重なリソースは時間です。
例えば、時間を捻出しリソースを拡大するために、テレビやビデオというツールをどう使えるか、ということになります。子供がテレビを見いる間に、仕事や家事をしたい、疲れているので少しお休みを取りたい、という場合です。
実際、多くの子育て世代の親は、一定の時間子供にテレビを見させたりゲームをさせたりして、自分たちが家事や仕事の時間を作り出しています。
あるいは、質の良いテレビやゲームが子供の発達上望ましいと考える場合、積極的にテレビやゲームを与えるかもしれません。
また、時間を確保するために、お金を払ってベビーシッターや託児などのサービスを買ったり、家事を効率化させるためのモノ(ルンバや、最新式の調理器具など)を買うこともあるでしょう。
ここで大切なのは、目的に対してどれだけのリソースを使えるかを明らかにすることです。そして、お金や時間といったリソースを使う時には、費用対効果やコストパフォーマンスがどれだけ良いのかを考え、正しい使い方をしているのかをチェックする必要があります。
例えば、私はナニーさんに子供の面倒を見てもらっている間にスポーツジムに行くことがあります。これは健康増強という私の重要な目的の一つを達成してるので、このために使ったリソース(ナニーさんへの給与)はとてもコストパフォーマンスが良いです。
他方、せっかくナニーさんに子供の面倒をみてもらったり子供にテレビを見せるなどして時間を作り出したにもかかわらず、私がその時間を有効に使えなくなったら、せっかくのリソースに使えず、リソースの使い方もコストパフォーマンスも悪かったということになります。
3.情報
さらに、親にとっての時間の確保ということのためにテレビやゲームを使うとしたら、どのテレビやゲームをどれだけの時間子供に与えるのが良いのか、ということを考える必要があります。
そこでは情報が重要になってきます。どんな情報かと言いますと、テレビやゲームが子どもに与える影響についての情報です。
テレビやタブレットやスマホが6歳ぐらいまでの就学前のお子さんに与える影響として世界で最も権威があると言われているのは、アメリカ小児科学会のガイドライン(情報)です。
それによると「18ヶ月までの子供には原則としてスマホやタブレットを含めたテレビを見せない方が良い。18ヶ月から24ヶ月の子供にはなるべく大人と一緒に見ることが望ましい。2歳から5歳までの子供には、質の良いコンテンツを1日1時間以内にするのが望ましい。6歳以上の子供も、質・量ともに制限をもうけるのが望ましい。」ということです。
https://www.apa.org/topics/healthy-technology-use-children
このアメリカ小児学会の見解がベストプラクティスあるとすれば、このベストプラクティスをすることは可能でしょうか。
実は非常に多くの親御さんにとってはこれは難しいと思います。特に子供が18ヶ月までテレビもタブレットも全く見せない、子供が18か月から24か月の間には大人とテレビを視聴するというのは、多くの親御さんにとって現実的ではないです。
実際、少し前まではアメリカ小児学会のガイドラインはもっと厳しく、2歳(24か月)未満の子供には一切テレビやタブレット、スマホを見せないように言っていました。しかし、それは多くの親にとってあまりにも非現実的だったので、アメリカ小児学会もガイドラインを改訂し、18か月からはテレビなどを見せても良いということにしたのです。つまり、アメリカ小児学会ですら、理想的で最高の状態は実現できないと判断し、親の都合といった他の要因を考慮に入れて、ガイドラインをより現実的なものへと「最適化」したのです。
このように、ベストで理想的で最高の状態を達成することはできないという状況において、どのように私たちが実現可能な、 つまり最適な状況を実現できるかということを考える必要があります。
では、テレビを見させる中で、そのデメリットをなるべく小さく抑えるにはどうすれば良いでしょうか。例えば、どういったテレビ番組が小さい子供にとって良いのかというについての情報です。それはいくつかの情報源がありますが、私がよく使っているのは、「コモンセンスメディア」というサイトです。
https://www.commonsensemedia.org/
例えば、日本語にもなっている「スティンキーとダーティー」というアメリカ発のテレビ番組があります。このコモンセンスメディアのサイトにいよると、この番組は3歳以上の子供向けで、良い評価を得ているので、私の3歳の末娘にも安心して見せられます。
お子さんへのビデオゲームやオンラインゲームについても同じです。まず、子供にとってゲームというものはどの程度の影響はあるのでしょうか。現在のほぼ共通している専門家の見解としては、ゲームはメリットとデメリットの両方があるということです。メリットとしては、新しい思考を取り入れられたり新しい考え方を取り入れたり知識を取り入れることができるということがあります。実際、ゲームにより、目と手の協働能力が上がるという研究結果もあります。
他方、デメリットとしては、どうしても暴力的なコンテンツが出てしまうということ、そして子供が依存症になりやすいということ、また、ゲームに多くの時間を割いてしまうと、他の活動(体を使った運動、手先を使って何かを創る活動、本を読む時間、野外で過ごす時間)を充分にとれないということです。
ここから言えることは、ゲームにはデメリットとメリット両方がありますので、親自身の目的やご家庭の価値観で何をするかということをまず決める必要があるということ、 またゲームする場合にはどのようなコンテンツのゲームがふさわしいのかということをきちんと考えて子供の年に相応しいゲームを与えるということです。
さらに、時間についても、何時間までなら許容範囲なのかについてあらかじめ正しい情報に基づいて決めておくことです。(私は、就学期のお子さんなら、質の良いテレビやゲームであれば、一日一時間程度なら親が罪悪感を持つ必要はないのではないかと思います。)
このように、目的を明らかにし、使えるリソースを確保し、良い情報を手に入れて、親にとってのビデオやテレビへの方針や許容範囲を決めます。
次のステップで課題になるのは、子供にどう働きかけるかということです。いくら親が良い方針を持っていても、子供に対してそれを行うことができなければ、絵に描いた餅です。
この段階で役立つのが、育児スキルです。
このシリーズ第2回では、子供へのテレビやビデオといったシチュエーションで役立つ育児スキルについてお話しします。