あなたにとって大切な価値観はどんなものですか、どのような価値観をあなたの子供に伝えたいですか。
子育てについての情報は非常に多くて、何を信じたらいいのか、何を参考にしたらいいのか、悩ましいことが多いです。
そこで、自分が目指すもの、自分が目指す価値観がどういったものかということをはっきりさせておくと、より主体的に情報を選ぶことができます。
では、どのようにして自分の実現させたい価値観を明らかにするのでしょうか。
価値観とは、私たちが望ましいと思っているもので、私たちの意思決定や行動の大切な礎ともなるものです。
私たちはこういった価値観を、私たち自身の親や家族、共同体・コミュニティー、あるいは私たち自身の経験を通じて獲得します。私たちが持つ価値観の多くは、意識的にあるいは無意識的に子供の頃にます。
私たちが親として実現したい価値観を明らかにする事は、自分たちがどのような親になりたいのかを子供にしたいのかと言う事をより明確にするのに役立ち、以下の3つの理由から、子育てをより成功に導きやすくなります。
1.情報を選択しやすくなる。
子育てにおいて「こうするべき」といった情報の根底には、それを唱える人の価値観があります。あなたの価値観がその人の価値観に合致しているなら、その情報を取り入れるという判断は望ましいですが、そうでないなら、その情報は、あなたには余り価値がないものです。例えそれが名だたる一流の大学の教授によるものだったとしても、です。
例えば、「親は、子供の良い行い(勉強をする、本を読む、行儀よくする、など)にご褒美を与えるべきか」という問題があります。
この問題に対して、多くの研究者が色々な議論をしてきましたたが、全ての研究者・教育者の間で見解が一致しているわけではありません。
例えば、次の二つの、相異なる結論について、あなたはどのように判断し、「ご褒美を与える」かどうかを選択しますか。
1)ご褒美に肯定的な研究
ハーバード大学のフライヤー教授は、教育経済学の観点から、親が、勉強したり本を読むという子供の行為にお金などの報酬を与えると、学力テストの点数が向上したと結論づけました。また、フライヤー教授は、ご褒美が、勉強の楽しさを持つ気持ちを失わせるとは言えないとも結論づけました。
2)ご褒美に否定的な研究
他方、子供にご褒美を与えることに否定的な見解や研究もあります。例えば、アメリカの教育者アルフィー・コーンや発達心理学者のバイリ―博士は、その著書で、①勉強へのご褒美は子供や読書の量を増やすかもしれないが質は下がってしまうこと、②ご褒美を得るために必要なことだけをやるという姿勢が身についてしまうこと、③親が「ご褒美を与える」という絶対的な権威を持ってしまい、子供は親を喜ばせようとしてしまうこと、④子供が勉強や読書といったことをする目的が、好奇心や知識欲といったことではなく、ご褒美になってしまうこと、などを指摘しました。
どちらの見解を採用するかを判断する決め手は、あなたの価値観です。
子供の学力が重要なら、最初の見解を採用して、ご褒美を与えるという親としての判断をするでしょう。
もし、あなたが、子供がご褒美目的ではなく自主的に勉強し、好奇心から質の高い読書や勉強をしてほしいと思うなら、2つ目の見解を採用するでしょう。
このように、自分が目指すものや自分が価値を置くものを明らかにすることで、情報の取捨選択の基準がみえてきます。
2.日常生活の中で子供に価値観を教えられる
2つ目は、私にとって重要な価値観は何かを明らかにすることで、私は子供との日常的なやりとりを通じてその価値観を実現させる事を行うことができました。価値観を教えるといっても、道徳の本を読むとか、お寺や教会に行ってお坊さんや牧師さんのお話を聞くことではありません。そうではなくて、親として、実現させたい子供に伝えたい価値観を日常的なやりとりの中で行うことができます。
例えば、私は「人の気持ちに共感する・思いやりを持つ」ということがこの価値観の1つでした。では、私がどのようにしてその共感するということを子供との関係にさせたのでしょうか。それは、日々子供と接するなかで、子供の様々な感情を認めることです。現代の子供が馴染んでいる文化では、あたかもニコニコ笑ってハッピーな状態でいるのがいいんだと言うような価値観が流布しています。しかし、実は子供はいろいろなネガティブな感情も含めて複雑な感情持っています。そういった感情を受け入れることで私は共感するという価値観を実現させたいと思いました。
3.ロールモデルになりやすい
親として大切にしたい価値観を明らかにすることで、子供にとってのロールモデルとしての役割を果たしやすくなります。
子供は親を見て育つので、「私がやることではなくて、私が言うようにしなさい」といったアプローチはやはりうまくいきません。子供には「計画立てて勉強しなさい」と言っているのに、親がダラダラと過ごしていては、子供は親の言うことを聞くでしょか。
例えば、私は「誠実」という価値観が非常に大事で、それを身をもって子供に教えたいと私は思いました。
そこで、私は子供とした約束は必ず守ると言うことを心がけました。実は、親にとって子供との約束を守るというのはいつでも簡単にできることではありません。親だって忙しいし、子供のちょっとした要望に誠実に対応するのは難しいことがあります。例えば、「後でこの本を読もう」と子供と約束していたのに親が忙しくて忘れてしまったとか、子供に「ママ、来てよ!」と言われて親が「すぐに行くよ!」と言ったのに忙しくなって行けなかった、といったことは誰しも経験があることではないでしょうか。
でも、多くの場合、それは子供にとってはとても大切な約束なのです。親にとっては些細に見えることだったとしても。そして、親が約束を果たせないでいると、子供は「パパ・ママが嘘をついた」とい考えてしまいます。すると、とても「誠実」というロールモデルを果たすことができません。
自分の核となる価値観が誠実さであると知り意識することで、自分自身が誠実という価値観を行動を持って示すことができ、子供にその価値観を教えることが出来やすくなります。
このように、自分が親としてどんな価値観を持ってるか、特に核となる価値観は何か、そして、子供に受け継がせたい価値観は何か、ということを知ることで、世の中に溢れている子育て情報を自分で判断することができ、日常生活の中で価値観を子供に教えることができ、そして、親としてロールモデルになれる、ということがあります。
では、自分の価値観をどのように知るのでしょうか。次のブログ記事でそのお話しをします。
参考文献:
Fryer, R. G. (2011). Financial incentives and student achievement: Evidence from randomized trials. The Quarterly Journal of Economics, 126, 1755-1798.
Bailey, Becky (2000), "Easy to Love, Difficult to Discipline"
中室牧子(2018)「学力の経済学」